Football World Column 加部究の『神様のシナリオ』

Football World Column 加部究の『神様のシナリオ』

 

 

文:加部究 神様は突然、誰も想像できないようなシナリオを描く!時には歓喜に満ちあふれるような奇跡を、そして時には静寂を生み出す残酷な現実を。ここに、サッカー界に描かれた『神様のシナリオ』を綴る! 『相馬直樹1998〜肌の記憶〜』本物と!

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 フランスワールドカップ最終予選も、ウズベキスタンとのアウェイ戦、さらに帰国後にもUAEとも分けてしまった時は、さすがに「こんなはずじゃないのに…」との思いが過ぎった。だが日本中が手に汗を握ったジョホールバル(マレーシア)でのイランとのプレーオフは勝てると信じ込んでいた。
「もしイランに負けたとしても、最後はオーストラリアに勝って本大会に行ければいい。そう思っていました。イランとのプレーオフでは、後半に1度逆転されているんですが、頭に浮かんだのは、ああ、これは延長戦だな、ということです。勝つことをまるで疑っていなかった。だってイランは怖がっていましたから。まず暑さを怖がり、日本の勢いを怖がっていた。イランが逃げ切りたいという雰囲気なのに対し、日本は切符をもぎ取ろう、勝ち取ろうというムードでしたから」
 イランを延長戦の末に3-2で破り、ワールドカップへの初出場を決めると、本大会が楽しみで仕方がなかった。
「親善試合で日本に来るチームなんて、みんな偽者ですからね。特にヨーロッパの選手たちは、所詮親善試合は親善試合、という割り切りがはっきりしていてファイトして来ない。逆にアジア内でのアウェイ戦の方が厳しかったりする。例えばタイは、今アジアで10本の指に入るかどうかですが、バンコクで勝つのは大変だと思いますよ。同じ親善試合でも、韓国や中国に出かけて試合をするとなれば、歴史的背景もあるし、まったく雰囲気も違ってくるでしょう」
 国内で開催されるキリンカップでは、ユーゴスラビアを破り、クロアチアとの乱戦も制した。だがこうした強豪国とタイトルを賭けて真剣勝負をする機会は、まだまだ限られていた。それだけにワールドカップでは、今度こそ本物とやれる、という喜びが溢れた。

 6月14日、トゥールーズ、対アルゼンチン戦。直接向かい合うのは、右サイドの突破力では世界一と言ってもいいサネッティ。だが相馬が意識したのはむしろサネッティより、トップ下に位置するオルテガがサイドに流れて来た時に自由にさせないことだった。
「オルテガに前を向かせたら決定的な仕事をされてしまう。だからどこに流れても、誰かが近くにいるようにしました。ボランチは名波にしても、素さん(山口素弘)にしても、あまりついてくるタイプではない。だから僕がなるべくついてあげないといけないと思いました」
 実際オルテガを振り向かせないという狙いは徹底され、相馬はDFの秋田豊や名波との連携で素早く囲い込み、何度かボール奪取にも成功している。逆に序盤には、結果的にオフサイドの旗が上がったが、相馬自身が名波のパスに合わせて飛び出し、ヘディングシュートを狙うシーンもあった。プラン通りの立ち上がり。思ったより攻めてこないアルゼンチンに「怖くないぞ、これならもっと繋げる」という意識が芽生え始めた。

 

※この作品は『VS』2006年に掲載されたものです。